東京高等裁判所 平成9年(ネ)1884号 判決 1998年2月03日
千葉県浦安市富岡四丁目二〇番一〇号
控訴人
村崎和雄
右訴訟代理人弁護士
金田充男
右補佐人弁理士
志村正和
埼玉県北葛飾郡松伏町築比地二二六八番地一三
被控訴人
有限会社不動機工
右代表者代表取締役
増田孝司
右訴訟代理人弁護士
山嵜正俊
右補佐人弁理士
中村政美
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決添付の別紙一被控訴人製品目録記載のドリルヘッド用爪を取り付けたアースオーガドリルを製造し、販売してはならない。
3 被控訴人は、その本店、営業所及び工場に存する前項記載の物件並びにその半製品(前項記載の物件の構造を具備しているが、製品として完成していないもの)を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、一五六万円及びこれに対する平成五年一月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
6 仮執行宣言
二 被控訴人
主文同旨
第二 事案の概要
本件事案の概要は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決における「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」及び「第三 争点及びこれに関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決八頁三行目の「(一)」を削り、同頁四行目の「(1)」を「(一)」に、同九頁八行目の「(2)」を「(二)」に、同一〇頁一行目の「ア」を「(1)」に、同一一頁五行目の「イ」を「(2)」に、同一二頁五行目の「ウ」を「(3)」に、同一四頁八行目の「(3)」を「(三)」にそれぞれ改める。
二 同一六頁七行目の「五四一〇四」の次に「号」を加える。
三 同二〇頁一行目の「対象」を「対称」に改める。
四 控訴人の当審における主張
1 本件発明の技術的範囲として、原判決が判示するように、本件発明の構成要件から、「該爪の外側面が全長にわたりドリル回転に伴なう回転軌跡に沿う弧状をなし」との要件を除外することは誤りである。
なぜならば、発明とは、「発明の解決課題」を達成するための技術として、いくつかの要件を有機的かつ一体不可分に統一した技術的思想として成り立つものであり、その技術的思想によって、明細書記載の所定の作用効果を奏するからである。
また、仮に、本件発明から右の要件を除外するならば、「市販品の断面長方形状のアースオーガドリルヘッド用の爪」を、外周面を弧状にしないで、爪の先端部が水平になるように捻れた形状に取り付けたものも、本件発明の技術的範囲に含まれることになり、妥当でないことは明らかである。
したがって、本件発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるべきである。
2 原判決は、被控訴人製品について、「先端部を水平にするために爪を捻れた形状に形成する構造は採用していない。」と判示するが、誤りである。
本件発明と被控訴人製品とは、解決すべき課題及び機能、作用効果を共通にするが、それらは、いずれも、爪が捻れた状態でドリルヘッドに取り付けられていることによるものである。
原判決の認定の誤りは、本件発明の爪が、本件明細書記載の実施例に図示(原判決添付別紙二参照)された形状のものであり、他方、被控訴人製品の爪が直方体形式の爪であると判断した点と、本件発明の爪が、特許請求の範囲中に、「取付け状態において」という条件下で形成されるものと記載されていることを見過ごした点にある。
本件発明の爪については、どのような手段により造られるかは問題ではなく、要は、取り付けられた状態において、本件発明の構成要件を備えていればよいのである。すなわち、このことは、爪そのものが、単品としてみた場合に捻れて作られているか否かではなく、ドリルヘッドに取り付けられた状態において、捻れた形状になっているか否かということである。
したがって、本件発明の爪は、捻れた形状に構成された爪を、ドリルヘッドの捻れたスクリュー板に取り付けてもよいし、あるいは、捻れたスクリュー板に、直方体形式の爪を取り付け、この爪を、取り付けた状態において、捻れたスクリュー板を延長するように加工してもよいものである。
被控訴人製品は、後者に該当するものであり、ドリルヘッドのスクリュー板に、直方体形状の爪を、原判決添付の別紙一被控訴人製品目録記載の<1>ないし<4>の状態で取り付けたものであるから、その爪の構造は、本件発明の特許請求の範囲に記載された要件を充足する。
したがって、被控訴人製品は、本件発明の技術的範囲に含まれることは明らかである。
3 なお、原判決は、本件発明が、「鍛造ないし鋳造技術を採用しているのに対し、被控訴人製品は直方体状の爪先端部を水平に位置させた状態で爪をスクリュー板に溶接する技術を採用しており」と判示しているが、切削刃を鍛造あるいは鋳造によって造ることは慣用技術であり、本件発明の切削刃に限らず、被控訴人製品の刃(爪)も鍛造あるいは鋳造により造られている。また、切削刃をスクリュー板に取り付けるため、溶着手段を用いることも慣用手段であり、本件発明の切削刃(爪)も同様の方法により取り付けられている。
五 控訴人の当審における主張に対する被控訴人の反論
控訴人は、ドリルヘッドの爪がスクリュー板に取り付けられた状態において、捻れた形状となっているものは、本件発明の構成要件を充足する旨主張する。
しかしながら、爪が捻れた形状とは、原判決添付別紙二(本件特許公報)の図面第八図に記載のとおりのものであるところ、被控訴人製品の爪は、取り付けられた状態においても、そのような捻れた形状を有していない。すなわち、被控訴人製品の爪は、外側面が切り欠かれていても、他の側面はストレートのままであり、捻れた形状は皆無である。
被控訴人製品は、爪の捻れた形状を採用する代わりに、スクリュー板52の下端部外周に切り欠き部を形成し、この切り欠き部にストレートな角柱状をなした爪53を斜めに溶接しただけのものである。
被控訴人製品の構成は、「ストレートな角柱状の爪の外側面が一部円弧状に溶断されたもの」である。ストレートな角柱状の爪は、本件発明の出願前から使用されているものであり、被控訴人製品は、本件発明の明細書に記載された従来技術と同様に、「ドリル回転に伴なう回転軌跡4よりも外側に突出する」(本件特許公報二欄一行及び二行)角柱状をなすものであり、この突出した部分を後から溶断するに過ぎない。
したがって、被控訴人製品は本件発明の技術的範囲に含まれるものではない。
第三 証拠関係は、原審及び当審における訴訟記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
一 本件発明の構成要件及び作用効果並びに被控訴人製品の特定についての当裁判所の認定、判断は、原判決の「事実及び理由」第四、一1(原判決三四頁一行目ないし九行目)及び同二(原判決五三頁六行目ないし五五頁九行目)に記載のとおりであるから、これらを引用する。
二 そこで次に、被控訴人製品の構成が本件発明の構成要件を充足するか否かの点を判断すると、本件発明の構成要件(二)(3)は、アースオーガドリルのヘッドに取り付けられる爪の形状を、取付け状態において「爪の先端部が水平に捻れた形状に形成したことを特徴とする」ものであることは、本件発明の出願経過等を参酌するまでもなく、その特許請求の範囲の記載から明らかである。そして、ここに爪の先端部が「捻れた」とは、棒状ないし糸状のものの両端に逆方向の力が加えられ、変形した状態を意味することは一義的に明らかであり、原判決添付別紙二の本件発明の明細書の発明の詳細な説明を検討しても、これを異なる意味に理解すべきものとする記載も示唆も存しない。そこで、被控訴人製品の爪53の構成が右にいう「捻れた」形状に含まれるかについて検討する。
前記一における認定事実からみるならば、被控訴人製品は、断面長方形の直方体状のアースオーガドリルヘッド用爪53について、その刃先先端の直線稜線53Aを、円筒軸51の中心線上に水平に位置させて、スクリュー板52の切り欠き部に溶接し、その後、スクリュー板52の回転最外周から外側に突出している部分を、外周に沿って削り取るかないしは切り落とす構造とされているものであり、これによって形成される爪の外側面は、概ね鉛直面をなし、かつ爪の先端部も水平とされてはいるものの、爪自体については、特に捻れた形状に形成されているものではないことが明らかである。
これに対し、控訴人は、原審及び当審において、被控訴人製品の爪は、ドリルヘッドに取り付けられた状態において、捻れた形状になっているものであり、その点において本件発明の構成要件を充足し、捻れたスクリュー板を延長する状態に爪を加工して取り付けることにより、本件発明と同様の構造になると主張する。
しかしながら、被控訴人製品の爪は、単に直方体をそのままスクリュー板に溶接し、不要部分を削り取るというものであり、その工法のとおりの形状を示しているものであって(原判決添付別紙一第1、第2図)、方形の爪の両端に逆方向の力が加えられ、全体が変形した形状を示すものとはいえないから、爪自体の形状を「捻れた」ものとみなすべき余地はなく、また、そのような爪を、捻れたスクリュー板に取り付けたとしても、爪の形状において「捻れた」ものと認めることもできない。
更に、甲第三号証(原判決添付別紙二)の記載からみるならば、本件発明の明細書の「発明の詳細な説明」欄においても、本件発明の爪の「捻れた形状」が、被控訴人製品のように、直方体の爪を切削し、切り落とすことによって形成される形状をも含むことを窺わせる記載は存在しない。
そうすると、被控訴人製品の爪の形状については、本件発明の構成要件(二)(3)の技術的範囲に含まれるものではないというべきである。
三 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、被控訴人製品は、本件発明の技術的範囲に含まれないことは明らかであるから、被控訴人製品の製造販売行為をもって、本件特許権を侵害するものということはできない。
第五 よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないものというべきであるから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
口頭弁論終結の日 平成九年一二月一八日
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)